製造業景況感「3年ぶり高水準」の裏にある危うい現実
2025年9月、日本の製造業の景況感が3年ぶりの高水準を記録しました。
ニュースだけを見れば「景気回復の兆し」と錯覚しがちですが、冷静に中身を分析すると楽観視はできません。
今回の改善は、米国との関税協定による一時的な輸出環境の好転が大きな要因です。
輸出関連大手企業、特に自動車や輸送機械メーカーの業績は好調ですが、これは政策効果ではなく外部環境による“棚ぼた的恩恵”に過ぎません。
言い換えれば、日本の製造業は自らの競争力で勝ち取った回復ではないということです。
この構造的な脆弱性を直視せず、数字だけを見て「景気は回復基調」と報じる論調こそが、日本経済の長期停滞を助長していると言えるでしょう。
米国との関税協定は「劇薬」でしかない
今回の景況感改善の立役者は、米国との関税協定です。
自動車や電子部品などの主要輸出品に対する関税引き下げは、確かに短期的にはプラスに働きました。
しかし、その裏側には大きなリスクが潜んでいます。
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米国市場依存度のさらなる高まり
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他市場への価格競争力低下
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為替変動による収益不安定化
つまり、日本は「米国市場頼み」という危うい構造をさらに強めたに過ぎません。
今後、米国の景気後退や政策転換が起これば、今回の“景況感改善”は一瞬で崩れ去る可能性があります。
製造業を牽引する自動車と輸送機械の「強さ」と「限界」
今回の統計で最も大きな伸びを示したのは、自動車と輸送機械分野です。
特にハイブリッド車や電動車両(EV)の米国向け輸出が好調で、大手メーカーは増産体制に入っています。
しかし問題は、この分野が抱える構造的リスクです。
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EVシフトで欧州・中国との競争が激化
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サプライチェーンの海外依存度が高すぎる
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国内生産より海外生産を優先する体質
自動車業界が稼ぎ頭であることは間違いありませんが、長期的には「日本で作る意味」が薄れつつあります。
国内雇用や地方経済への波及効果が限定的になっている現実は、景況感の数字だけでは読み取れません。
中小製造業は「回復」どころか疲弊の一途
大手メーカーの好調とは対照的に、中小製造業の現場は深刻です。
内需は冷え込み、消費者物価の高騰による購買力低下が顕著です。
加えて、原材料費や人件費の上昇、人手不足といった三重苦に直面し、むしろ景況感は悪化しています。
とりわけ地方の中小企業では、大手の業績回復が自社の利益に結びつかない構造が鮮明です。
大企業は米国向け輸出で潤う一方、下請け企業にはコスト削減圧力が強まり、利益率はむしろ悪化。
このままでは、地方経済の疲弊が進み、雇用悪化による負の連鎖が加速しかねません。
サプライチェーン再編とデジタル化の遅れ
世界の製造業は、パンデミックや地政学リスクを背景に「サプライチェーン再編」が進んでいます。
しかし、日本の製造業はこの流れに乗り遅れています。
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部品調達先の過度な海外依存
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国内工場の老朽化と生産効率の低下
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AI・IoT導入率の低迷
例えばドイツや韓国は、国家主導で産業デジタル化を推進し、生産性向上に成功しています。
一方の日本は、技術者不足と投資不足からデジタル化が進まず、競争力の低下が深刻です。
このままでは、一時的な景況感改善はあっても、長期的には衰退が避けられません。
今後の日本製造業を左右する三つの分岐点
今回の景況感改善を「構造的成長」へとつなげるためには、以下の3つの課題解決が不可欠です。
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内需活性化と賃上げ政策
賃金上昇と税制改革によって購買力を回復し、内需主導型の成長へ転換する必要があります。 -
中小企業のデジタル投資支援
製造現場の自動化・AI導入を促進する補助金や低利融資を強化し、産業構造の底上げを図ることが重要です。 -
サプライチェーン再構築
米国依存から脱却し、アジアや欧州との取引網を再構築することで、リスク分散を進める必要があります。
これらを実現できなければ、日本の製造業は“数字上の回復”を繰り返すだけで、本質的な再生には至らないでしょう。
まとめ
製造業の景況感が3年ぶりに高水準となったのは事実です。
しかし、それは米国との関税協定という外的要因による一時的な結果であり、決して日本の競争力が高まったわけではありません。
むしろ、米国依存度の高まり、中小企業の疲弊、デジタル化の遅れなど、構造的な課題はより深刻になっています。
今必要なのは「景況感改善」という数字に浮かれることではなく、製造業の地力を取り戻すための抜本的改革です。
このまま現実から目を背ければ、日本の製造業は「衰退産業」のレッテルを貼られる未来が待っています。
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