ETF売却は「正常化」か「市場破壊」か
日本銀行は、異次元緩和と呼ばれた大規模金融刺激策からの脱却を目指し、保有する約37兆円ものETF(上場投資信託)の売却を準備しています。
一見すると「正常化への第一歩」に見えますが、実態は非常に危ういバランスの上で成立している政策転換です。
ここ10年以上、日銀は株価を人為的に支える“見えない後ろ盾”として市場に存在してきました。ETF買い入れは株価を下支えし、企業収益を維持し、政治にも一定の安定をもたらしてきたのです。
しかし、今後はこの「最後の防波堤」を手放すことになります。
ETF売却の影響は、単に市場の一時的な乱高下にとどまりません。
株価急落、円高進行、消費マインド悪化、企業収益の圧迫、失業率の上昇──日本経済全体に連鎖的なリスクを生み出す可能性があるのです。
「出口戦略」という美辞麗句の裏側
日銀は「金融政策の正常化」という大義を掲げますが、その実態は「積み上げたツケを市場に押し付ける作業」に過ぎません。
ETFの大量購入によって日銀は世界でも異常な規模の株式市場介入を行い、結果として株価構造をゆがめました。
これまでの政策の副作用は明らかです。
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株価が実体経済から乖離
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大企業の内部留保偏重が加速
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個人投資家が「日銀神話」に依存
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日銀が最大の株主となり企業統治が形骸化
今回のETF売却は、この“歪み”を是正するはずの政策ですが、タイミングと手法を誤れば市場は混乱し、逆に信認を失いかねません。
むしろ、これまでの政策失敗を「出口戦略」という言葉でごまかしているだけとも言えます。
市場への衝撃と投資家心理の崩壊リスク
ETF売却が現実化すれば、市場心理に強烈なショックを与えるのは避けられません。
過去10年以上にわたり「日銀が株価を守ってくれる」という信仰が形成されてきました。
その後ろ盾を外せば、投資家はリスク回避に走り、株価下落圧力は急速に高まります。
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株式市場
日経平均株価は2万7000円台まで調整する可能性があるとの予測も出ています。ETF売却による需給悪化は、特にTOPIX型の銘柄群に影響を与えます。 -
為替市場
金融緩和縮小は円高要因となり、輸出産業の収益に打撃を与えます。円高が進めば、海外投資資金は日本株から逃げる悪循環に陥ります。 -
個人投資家
NISAやiDeCoの普及で投資人口は増えていますが、日銀の撤退は「市場から見放された」という不安感を煽り、個人マネーの退避が進む可能性があります。
日本経済を直撃する「二重のリスク」
ETF売却は単なる市場調整にとどまらず、日本経済全体の脆弱性をあらわにします。
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企業収益への圧迫
株価下落は時価総額の減少だけでなく、企業の資金調達コスト上昇にも直結します。大手企業は海外依存で耐えられても、国内市場主体の中小企業には深刻な影響が及ぶでしょう。 -
家計への逆風
インフレが進む中、ETF売却で株価が下落すれば、個人資産の評価損が拡大。消費マインドはさらに冷え込みます。 -
金融機関への波及
株式市場の変動は、銀行・保険・年金など機関投資家の資産にも打撃を与え、信用収縮のリスクを高めます。 -
世界市場との連動リスク
ETF売却は海外投資家にも強い影響を与え、アジア市場を中心に連鎖的な株価調整を引き起こす恐れがあります。
政治的背景と政策失敗のツケ
今回のETF売却方針は、金融政策だけの問題ではありません。
石破政権は参議院選で大敗を喫し、支持率低下に歯止めがかからない中、経済政策の転換を急がざるを得ない状況に追い込まれています。
しかし問題は、財政政策と金融政策の整合性がまったく取れていないことです。
本来であれば、金融緩和縮小と同時に財政出動を強化し、需要不足を埋める政策が必要です。
ところが現状は、増税議論や社会保障費削減など、むしろ景気を冷やす方向に舵を切っており、政策のちぐはぐ感が市場の不安を増幅させているのです。
今後の展望と対策
ETF売却は避けられない流れですが、日銀には極めて慎重な舵取りが求められます。
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売却ペースの調整
段階的・長期的な売却計画を明示し、市場の混乱を回避する必要があります。 -
財政政策との連携強化
金融政策だけでなく、減税や補助金などを組み合わせた総合的な景気対策が不可欠です。 -
情報開示の透明性
市場への明確なメッセージを発信し、投資家心理の安定を最優先する必要があります。
これらを怠れば、ETF売却は「正常化」ではなく「市場崩壊」への引き金となりかねません。
まとめ
日銀のETF売却は、日本経済にとって大きな転換点です。
成功すれば市場の自立性を高め、金融緩和依存からの脱却につながります。
しかし、失敗すれば株価急落、円高、消費低迷、企業収益悪化といった負の連鎖が同時多発的に起こる危険性があります。
日銀は、過去10年以上積み上げた政策のツケをどう精算するのか──
その判断次第で、日本経済の未来は大きく変わることになるでしょう。
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